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住民投票条例否決の背景

    住民投票条例否決の背景
  原子力空母母港化について、民意を示したいとする2回目の直接請求は又も横須賀市議会によって葬られました。2度の敗退を受けた直接請求運動の戦略と戦術について私なりに分析し、意見を述べます。
 なお運動側が市議43名中8人の賛成しか得られなかったのに、議会を追い込んだとか、代わりに意見書を出させたとかの評価をしていますが、私は「負け惜しみ」は言わない方がよいと思います。挫けない事は大事ですが、昨年に比べ賛成が3減り、市民代表である議会の2割弱の賛成しか得られなかった事を分析すべきです。議会制民主主義は多数決です。論では押してたとか、量より質などという話しは通用しません。負けを認めず「負けたと思う方が負けなのだ」と言うような東条英機風思考に陥れば、同じ事を繰り返すことになるでしょう。ここは新たな運動を組み立てる事が必要でしょう。  
 ところでなぜこの直接請求が出てきたのか。まず通常型空母の継続配備という希望が、沢田前市長の口から出てきたことに始まると思います。安保堅持派の市長が言い出し、日米同盟を危険視する人達がこれに乗った事が原点かなと。空母母港化の是非ではなく、その積載する動力のみが問われた事は、35年前のミッドウエーの母港化の際と異なる点でした。
 この際、率直に言いますが通常型空母の継続配備を日部同盟に対し正反対の両勢力が、共に求めるという事自体、私には奇異に映りました。それは今でも氷解していません。その理由はなぜかを理解して頂くために軍艦の動力源について考察して、意見を述べます。軍艦のエンジンについて興味のない方は読み飛ばして結構ですが、軍事的視点がないと、有効な運動論の構築は出来ないと思います。
 まず軍艦の動力ですが今日では5つに分かれます。
1,原子力タービン型(常任理事国がもつ原潜、米、仏の空母、露の巡洋艦)
2,重油による蒸気タービン型(米ロ空母など大型艦、強襲揚陸艦など)
3,ジーゼルエンジン(支援艦、掃海艇など)
4,ジーゼル・エレクトリック(ジーゼルで発電しモーターを回す現在の潜水艦)
5,ガスタービン(ジェットエンジン。巡洋艦、駆逐艦、イージス艦など各国水上艦の多くに採用)
軍艦の動力ですが20世紀に入ると戦艦、巡洋艦、空母、駆逐艦など主要軍艦は石炭又は重油でボイラーを焚いて高圧蒸気を作りタービンを回す方式としました。しかし潜水艦は潜る必要がある事からディーゼルエンジンを積みました。舶用ディーゼルエンジンはバス、トラックなど自動車用と変わりませんが、排気量は大容量となります。内燃機関ですから燃焼させるために空気が必要で、通常型潜水艦は潜航時はエンジンを止め蓄電池によって電気モーターを回し水中を航行します。
 以前の潜水艦は充電のために浮上してエンジンを回す必要があり、そのために何時間も浮上航行せねばならず、第2次大戦時中期から潜水艦狩りを充実させた英米はレーダー探知による攻撃で浮上航行中の日・独潜水艦の多くを撃沈しました。ドイツはこれに対抗するため44年から潜望鏡深度でのシュノーケル(吸気筒)による空気確保をあみだし、日本海軍も戦争末期にこれを採用しました。しかしシュノーケルを海面に出さねばならずレーダー探知の危険性は残り、またシュノーケルからの「呼吸」は波をかぶる毎に弁が閉まるため、乗組員に健康ストレスをもたらしました。ゆえに第2次大戦までの潜水艦は「潜水可能艦」と呼んだ方がよいとの評価もあります。
 軍事お宅的世界に入りましたが、原子力による艦船動力は戦後アメリカ海軍によって潜水艦の売りである秘匿性を最大限に活用するため実用化しました。原潜の父と呼ばれるリッコバー提督により建造された世界初の原潜ノーチラス(54年就役)は58年8月潜航したまま北極点に達し世界を脅かせました。潜水艦と原子力の組み合わせは軍事運用上最適で、これ以降米ソを中心に原潜全盛時代に入ります。原子力動力は潜水艦を単に艦船攻撃だけでなく大陸間弾道弾も搭載しうる戦略兵器(59年)へと昇格させ、何十日もの海中行動が可能になりました(乗組員の健康を考え2ヶ月程が限度)。
 潜水艦はともかく、なぜ水上艦に原子力が用いられたのでしょうか。50年代後半から米ソを中心に水上艦船の動力に原子力を用いる事が検討され、米、ソ、西独、日が原子力商船を建造しましたが経済性やメンテナンス面から商船にはジーゼルエンジンが一番であることが立証され70年代以降の商船の原子力化はありません。なおその結果米、仏、露は大型水上艦の動力に原子力を用いることにしました。
 世界一の海軍国アメリカは61年世界初の原子力空母エンタープライズを就役させ、護衛には原子力巡洋艦ロングビーチ、同ベインブリッジなどを建造し原子力機動部隊を編成しました。エンタープライズ(CVN65)の建造は実験的であり運用効果を試したと見るべきでしょう。なぜなら米海軍はその後CV66アメリカ(65年就役)、CV67ジョンFケネディ(68年就役)と2隻の通常型空母を建造しています。しかし60年代末、次の艦番号68のニミッツからは原子力に転換し、それ以降建造するすべての攻撃型空母(ニミッツ級)の動力は原子力としました。
 一方護衛艦艇は60年代末から80年代にかけて原子力巡洋艦を2タイプ5隻建造しました。しかし議会は航空母艦に比べ小型で艦齢が短かい水上戦闘艦に高価な原子力機関を採用することを強く批判したため、原子力水上艦の建造を打ち切られ、冷戦終結後の90年代には全て退役させ、空母の護衛艦は全てガスタービンにした事実をみる必要があります。
 話は変わりますがアングロサクソン人種は戦争がとにかく旨いと思います。故に水上艦艇の搭載動力を棲み分けが行われました。それと、説明はしょりますがアメリカは戦争せずには経済が成り立たたない国となりました。20年前の「悪の大国ソ連」が崩壊、冷戦終結後は、常に直接戦う相手を作り、自国から遠い何処かで戦争をしてないと産軍複合体経済は成り立たないようです。
 また米空母の日本配備(母港化)は極東の平和と日本の安全のためとなっています。たしかに空母展開の抑止効果はロシア、中国、北朝鮮に対し有効でしょう。しかしそれ以上に空母を日本に配備するアメリカのメリットは極東のみならずインド洋、中東までに速やかに空母打撃部隊を展開できる点にある事も承知すべきでしょう。
 ですから原子力は嫌だから通常型空母をと言う論議は、原潜入港から40年以上たつ今日情緒としてはともかく、外交案件として成立するのかとの疑問があり続けました。特に日米軍事同盟を支持し、空母母港化の有効性を認める安保堅持派が、エンタープライズ建造から半世紀になんなんとする時代、原子力空母への交代は必然と捉えず通常型を求めたのは、単に軍事音痴なのか、又は市民向けのパフォーマンスだったのか?。しかし保守市長が言いいだしたのだから「ひょっとして」との「幻想」を振りまいたことは事実で、罪深いと思います。また蒲谷市長も、議会も一時期はすべてこれにのって、叶わぬ希望を政府や米海軍に求めたのも政治家として如何なものだったか、「通常型空母配継続備論」を反省している所です。以下続く。

by ichiyanagi25 | 2008-05-21 09:58

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